『騎士団長殺し』 は村上春樹版ギャッツビー

以下ネタバレを含みます。

騎士団長殺し」読了しました。率直に言って面白かった、おすすめです。ここ最近の作品では、といっても前作から7年振りですが、一番好きかも知れません。

本作は村上ワールドの集大成です。内省的な主人公、一人称の描写、それから井戸や不倫や高級車などの小道具、異世界との行き来き、など。初期作品に見られたテーマや技法が復活しています。

それからフィッツジェラルドへのオマージュ。免色さんですね。主人公は小田原の山奥に住んでいるのですが、その隣にある豪邸にたった1人で住む免色さんというキャラクターが出てきます。素性も職業もわからないミステリアスな大金持ちです。

そんな免色さんがなぜ辺鄙な山奥に1人で住んでいるのかという謎に巻き込まれていく…これが本作品のメインプロットですが…。

そう、免色さんのモデルは明らかにジェイ・ギャッツビーですし、プロット自体が「グレート・ギャッツビー」のオマージュです。ああ、きっといつか村上版ギャッツビーを書きたたかったんだな。読み終わってそう感じました。

さて、今時点で村上春樹も68歳。前作「1Q84」からのインターバルが7年ですから、このボリュームの長編はあと1作書けるかどうかではないでしょうか。そう考えると、「騎士団長殺し」は小説家のキャリアや自身のルーツを全て詰め込んだ、縁起でもないですが、遺作的な雰囲気すら感じてしまうのです。

『選択の科学』 決める回数を減らして幸せに生きよう

選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)

選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)

 

「決める」ことは本当にエネルギーを使います。ビジネスでも一番重たい仕事は意思決定で、普通の会社では、上にいくほど「決める」ことが仕事になります。

例えば、甲乙つけがたい2案から出店場所を決める、優秀な2人の部下のうちどちらか1人しか昇進させられない、リストラをするかしないか…、スケールは違えど「決める」ことは相当にエネルギーを使います。

この決断のストレスは日常生活にもあって、例えば今日はどんな服を着ていくか、どの靴を履くか、飲み会に参加するか/しないか、私たちの人生は意識するかしないかに関わらず決断の積み重ねです。

本書はそんな「決める」つまり「選択する」という行為をテーマにしています。この研究結果からすると、決めることにストレスを感じる人、決められないことにストレスを感じる人、2種類に分かれるそうです。

前者は儒教系のバックグラウンドがある私達アジア系であり、後者は自己表現を幼いころから育てられてきた欧米系に多いそう。

一見なるほどな感じもしますが、例えば、FacebookのザッカバーグやAppleのスティーブジョブスは(億万長者なのに)毎日同じ服を着ており、その理由は「決める回数を少なくして重要な意思決定に集中したい」からと言われています。

同じように、ちょっと前に流行った「ルーティーン」だって、ゲン担ぎもあるでしょうが、日々同じ行為をして「決める」機会をつくらないところに、心が安定する秘訣がありそうです。

そう考えると、自分が重要ではないと感じる物事を「決める」ことは、誰にとってもストレス以外のなにものでもないのだと思います。日常になるべくルーティーンを組み入れて、自分の好きなことだけ「決める」ことが幸せにつながる気がしますね。

 

2017年に買った本

f:id:pekey:20170219120559j:plain

買った本・読んだ本をリスト化しようと思います。購入した都度更新します。タイトルにリンクがあるものはレビューを書いています。

こうして見ると、そのときの気分でジャンルが大きく違っていて面白いな。元気なときはビジネス・思索系、疲れているときが物語系ですね。

Title Author
鈴木敏文 孤高 日経ビジネス編
インターネットの次に来るもの ケヴィン・ケリー
運命の25セント シドニィ・シェルダン
IoTとは何か 坂村健
善と悪の経済学 トーマス・セドラチェク
紙のプールで泳ぐ 片岡義男
最後の資本主義 ロバート・B・ライシュ
騎士団長殺し 村上春樹
家康の遠き道 岩井三四二
女のいない男たち * 村上春樹
雪は天からの手紙 中谷宇吉郎
とっぴんぱらりの風太郎 万城目学
生涯投資家 村上世彰
人類の未来 吉成真由美/編

『紙のプールで泳ぐ』

f:id:pekey:20170214225210j:plain

先週末は嬉しいことがありました。片岡義男の『紙のプールで泳ぐ』の単行本を古本屋で発見したのです!もちろん購入しました。1985年に790円で発売されたようですが、それから30年経過し、840円に値上がりしてました。

紙のプールで泳ぐ』は1980年代にポパイで連載していた片岡義男のコラムを書籍化したもの、だそうです。私はこのアメリカに憧れていた時代の雑誌や書籍が好きで、あるとき文庫本で購入したのですが、まあこれが良くて。

30本のエッセイが収録されていますが、一番好きなのは、やはり表題「紙のプールで泳ぐ」ですね。

「紙のプール」とはデイヴィット・ホックニーの『Paper Pools』という画集のことです。80年代はプールをテーマにした絵画や写真が多く、なんでだろう都市の象徴だからでしょうか、日本のイラストレーションでも「海とプール」が題材の絵をよく見ます。

ホックニーの「Paper Pools」はそんなテーマを踏襲したのか、それとも皮肉ったのか、背景はわかりませんが、ビジュアルとしてインパクトがあって素敵なことは確かです。ホックニーは今も存命で新しい作品を公開しています。が、やはり「紙のプール」が一番好きかな。

さて、この『紙のプールで泳ぐ』の単行本は、絵や写真集を紹介しているのに、ビジュアルがいっさいないので、まったく雰囲気が伝わりません。楽しむだけであれば文庫の方が良いですね。悲しいかな中古はAmazonで1円にて発売中です。

ホックニーの『Paper Pools』はさすがに高くハードカバーは3万円ぐらいします。

『職業としての小説家』を読めば村上春樹がノーベル賞候補になった理由がよくわかる

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

 少し前になりますが、村上春樹が雑誌『MONKEY』で自身の小説家としてのキャリアを振り返ったコラムを書いていました。 いままで余り触れてこなかった仕事論をテーマにしているため、結構面白くて楽しみにしていました。

このコラムに描き下ろしを追加したものが『職業としての小説家』なのですが、これはホントに名作で、特に海外展開のくだりなんかビジネスマンに一読をおすすめします。

ここ数年、ノーベル文学賞の候補に村上春樹の名前があがることが多くなりました。現在の日本人作家で世界で読まれているのは村上春樹ぐらいだと思いますが、本書を読むと、村上作品がなぜ普及したか、よくわかります。Murakamiで通じますもんね。

村上春樹の海外翻訳は、講談社のアメリカ法人から始まったそうです。普通はそうして委託するだけで終わりなのでしょうが、おそらく業績が芳しくなかったのでしょうか、村上本人が渡米して、現地の出版エージェントを探し、翻訳家を含めた村上チームでアメリカでの販売展開を行ったそうで、今も同じチームで運営されているとか。

この「本人が渡米してプロジェクトの立ち上げに関わっている」ことがなにより成功の秘訣に感じます。

もちろん作品のクオリティが一番大事。でも、それだけではダメで、マーケティングが大切。そして、海外展開のように誰もノウハウがない、いわば新規事業は提案者自らがオーナーシップをもって、自分でプロジェクトを回していくことが成功のキモ。

商売の普遍的な真理だと思いますが、一見関係なさそうに見える文学の世界であっても同じことなんだなあと気づかされます。もしかしたら本人は意図せずにアメリカに住みたかっただけだったり、純粋な好奇心だけで動いているのかも知れません。いや出身が商売人だからもしかしたら意図してやっているのかな。

いずれにせよ村上作品は、品質とマーケティングがうまく絡まった、世界に通用するコンテンツ・プロダクトであることは間違いありません。24日に発売される『騎士団長殺し』もホントに楽しみです。