大塚家具の後継者争いは「経営者レベル」の違いが本当の原因だ

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大塚家具が後継者争いで揉めています。

多くの報道では、「過去の栄光から脱却できない創業者」対「論理的思考の若き経営者」という構図で報じられているけれど、本当にそうなのでしょうか。

 

中途半端な久美子社長の経営計画

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創業者の大塚勝久元社長が記者会見で「悪い子どもを作った」発言をした次の日、大塚久美子社長が中期経営計画を発表しました。まるで外資系戦略コンサルタントのような洗練されたパワーポイントでした。しかし、ホームページで公開されている中期計画を見て、成長を期待させるものは何もありませんでした。

正直に申し上げて、法人営業の強化以外のポイントでは、イケアやニトリを挽回するのではという可能性を感じません。メディアやブログでも中期計画そのものはあまり取り上げられていない模様。さらに、今後の事業推移を説明した19ページをページを見て、コスト削減や会計テクニックで利益を捻出するつもりでは、とすら感じました。広告宣伝費をカットすればすぐ黒字になりますからね。

仮にそうだとして、それは経営課題の抜本的な解決ではなく、あくまで短期的な手段にすぎません。ましてや、大塚家具がおかれた経営環境は、既存のビジネスモデルが崩壊するという、極めて危機的な状況にいるにも関わらず、です。

 

親子が食い違う本当の理由は「経営者としての底の深さ」ではないか

大塚勝久元社長は埼玉県のタンス職人から、一代で大塚家具を上場企業まで成長させた商人。そんな人が「過去の栄光にこだわる」ぐらいで、事業を傾かせるような経営判断をするでしょうか。私にはそう思えない。

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実を言えば、このスライドを見たとき、ちょっと感動しました。営業利益をマイナス12億円に落としてまで、広告宣伝費を投じたんですね。私だったらテクニカルであっても赤字を回避するように努めてしまうと思います。

想像するに、創業者の大塚勝久元社長にとって、たかだか一期間の赤字なんて「なんともない」のではないかと思います。もっと大きな修羅場を超えてきたはずでしょうからね。このサラリーマン経営者にできない判断が、創業者の「経営者としての懐の深さ」そのものだと思うのです。

目指すものの「奥行き」が違う、とも言えます。久美子社長は少しづつ、利益を出しながら、堅実に成長していこうという銀行的な優等生的な経営スタイルだとすると、勝久氏のそれは、もう少しボラティリティの高い、「勝負に出る」経営なのでしょう。

ソフトバンク孫社長の「スプリント買収」、サントリーの「ビーム買収」、どちらもサラリーマン経営層では決められないでしょう。もちろん創業者が絶対ではないと思いますが、単純に「過去の栄光にすがるシニア」というメディアが報じる構図には違和感があります。

 

事業専攻型・創業者にみられる「自己表現の下手さ」

それでも勝久氏は負けるでしょう。

1つは資本市場のニーズをわかっていないということ。株式市場に上場した時点で、合理的で、ボラティリティの低い経営戦略がうけます。おおざっぱに言えば、株式会社の経営は、例えそれが陳腐な戦略で、結果として間違っていたとしても。個人の感性ではなく、合意形成によって決まります。株式市場において大勝負を許されるのは、常に勝ち続け、株主と上手にコミュニケーションができている一部の経営者に過ぎない。また極めて残念なことに、大多数の株主は、投資先に長期的な成長を求めていません。

そして、もう1つが、圧倒的な自己表現の下手さ。プレゼンテーションが下手すぎる。これだけの事業を築いた創業者だから、きっと時代にあった嗅覚があるはずなんだ。でもそれを表現できない。それゆえ「過去の栄光にすがる」という切り口でカテゴライズされてしまいます。

メディア戦略もまったくわかっていない。「悪い子どもを作った」なんて、なんで言うかな。なぜ社員を引き連れて記者会見に臨むのか。仮に自分の専門外のところでプロの意見を聞けないのであれば致命的という視点もあるし、なによりご本人に自己表現スキルがなさすぎます。この点では、今のご時世に求められる上場企業の経営者には不向きとしか言わざると得ませんね。

 

 

写真は日経新聞より引用