読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

村上春樹の小説では『納屋を焼く』が一番好き

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

 

==== 

村上春樹が『風の歌を聴け』でデビューしたのが1979年だから、この短編はデビューから4年目に出版された初期の作品になります。

初期の作品は、いわゆる村上タッチの風景描写が多く、揶揄する人も多いですが私は好きです。田舎の思春期時代に初めて読んだからか、年月が経った今でもやっぱり憧れのライフスタイルのロールモデルなんですよね。

とくに、この『納屋を焼く』にはそんな魅力がぎゅっと凝縮されています。よくよく念入りに推敲した感じが伝わるほどに文章に隙がない。今読み返すと、そんな隙の無さにキャリア初期の青臭さも感じます。

その次に僕が彼に会ったのは、昨年の十二月のなかばだった。クリスマスの少し前だった。どこに行ってもクリスマス・ソングがかかっていた。

僕はいろんな人にいろんなクリスマス・プレゼントを買うために街を歩いていた。妻のためにグレーのアルパカのセーターを買い、いとこのためにウィリー・ネルソンがクリスマス・ソングを唄っているカセット・テープを買い、妹の子供のために絵本を買い、ガール・フレンドのために鹿の形をした鉛筆けずりを買い、僕自身のために緑色のスポーツ・シャツを買った。

右手にそんな紙包みをかかえ、左手をダッフル・コートのポケットにつっこんで、乃木坂のあたりを歩いている時に、僕は彼の車をみつけた。まちがいなく彼の銀色のスポーツ・カーだった。品川ナンバーで、左のヘッド・ライトのわきに小さな傷がついている。車は喫茶店の駐車場に停まっていた。僕はためらわずに店の中に入った。

今、私はきっと主人公と同じぐらいの年齢なのでしょうが、やっぱりいくつになっても小説の「僕」の方が大人に感じるんですよね。

この『納屋を焼く』という作品は、1992年にニューヨーカー誌に掲載されたほか、翌年にはクノップフ社により編集された短編集『The Elephant Vanishes』にも収録され、アメリカでも十分な評価を得ています。

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991

「象の消滅」 短篇選集 1980-1991