この時代、大企業への就職はもはやデメリットが多い。特にネット論壇は独立組も多いからか、そんな論調がマジョリティのようだ。
正直、他人の人生に興味はないので好きにすればいいと思うし、指摘されているデメリットも良く当たっているとも思うのだが、ちょっと違う視点で大企業(いわゆる事業会社)に就職する良さを書いてみたい。
キャリアを会社が決めてくれる
自分でキャリアを選択することって難しくないか?
例えば、美術大学に進学している人は、クリエイティブ系の仕事で食っていくことを17歳のときに決断している。他にも、理系の学生は進路が定まっているケースが比較的多いように思う。彼らは高校を卒業する時点で選択を終えている。
問題は6割を占める文系学部生だ。
経済学部生がアナリストになりたいと思っているだろうか。法学部生が法曽界で生きていこうと思っているか。そう思っている学生は少ないだろう。大多数の学生は横並びに受験をして、なんとなく今の学部にいるのだ。(この前提が幼少期から「選択」を叩きこまれて育った欧米人とメンタリティが異なる)
そして、17歳のときに進路を選べなかった人間が、21歳になったら決められるか?4年間でなにか人生を決する出会いがあるか?あるいはそうかも知れない。出会いがあった人は就職時に選択すればよい。では、そうでなかった人は?
他人にキャリアを委ねてみてはどうだろうか。
コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が書いたベストセラー『選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)』によると、世の中には自分で選択することに喜びよりもストレスを感じる人が半分ぐらいの割合でいるそうだ。(ちなみに儒教文化の強いアジア圏でこの傾向が高く、自分で「選択」することと「幸福度」に相関はないとされる)
あなたもそんな人間かも知れない。一番やってはいけないことは、決断を遅らせるために自分探しというモラトリアムに嵌ることだ。こじらせるのが一番良くない。
大企業の人事制度が本当にしっかりしており、あなたの仕事は客観的に観察された結果に基づいて他の誰かが決める。これは必ずしも悪い話ではない。大切なのは、自分にフィットした仕事が見つかることであって、それを「誰が」決めることではない。
配属が嫌であれば、どうしても企業内のキャリアが違うと思ったら、その時点で転職すれば良いのではないか。
余談だが、この「決められない」という学生のモラトリアム志向を利用したのが、外資系の戦略コンサルティングファームだった。彼らは、「戦略コンサルはスキルを学ぶ勉強期間」と位置づけ、ピカピカに優秀な学生を、体力・精神的に一番働ける期間だけ、かつ低賃金で確保することに成功した(そしてUP/OUTという仕組みで重要な人物だけを残すことで職階ピラミッドを形成)。これを考えた人は天才だ。
個人では扱えない規模のビジネスができる
大量のヒト・モノ・カネを使って社会にインパクトを与えるプロジェクトは大企業にあることが多い。昨今はICTが進化し、ウェブアプリなどのサービスであれば、少人数のスタートアップでやることも可能になったが、やはり分野は限られており、例外的だからこそ話題になるのだと思う。
特に、不動産やインフラなどの有形の固定資産や多数のヒトが関連してくる分野や、資源のような高度なノウハウとコネクション、長期的な時間軸が必要な分野は、大企業以外ではそもそも事業領域がない。
このような個人では決して経験できない大きなプロジェクトに参加し、しかも意思決定できる役割は大企業にしかない。この意思決定というのがミソで、大きなプロジェクトは関係者も多く、例えばコンサルタントのようなアドバイザリーも多いが、彼らは傭兵に過ぎない。最終的に決定できるのはオーナシップを持った企業だけだ。
また、そもそも大きなものに関心がないというのがトレンドのような気もするが、せっかく優秀に生まれて来た人たちが、「誰にも頼らずに自分の力で社会をサバイブする」みたいな小さな目標を掲げるのはちょっと悲しくないだろうか。
自分にモチベーションがないときは誰かが頑張ってくれる
就職活動は人生でも大きな転機だし、自己分析などを死ぬほどやるため、どうしても学生側のマインドも劇画チックになる。
でも、本来の仕事はとても日常的なもので、学生生活の延長にある。
だから、どうしてもやる気が出なくて授業に行きたくなかったり、イマイチ気分が盛り上がらないことは、社会人になってもある。
大企業のキャリアパスは長期雇用を前提しており、また今の事業を安定的に運営することに主眼が置かれている。よって、人材プールが相当手厚い。(このデメリットは各所で散々議論されており、そのすべてが当たっていると思うので、ここでは触れない)
このため、あなたがちょっと手を抜いても、ちょっとモチベーションが少なくなっても、組織はちゃんと回る様になっている。あなたが凄く頑張るモードになっているとき、その反対側にやる気がない人がいるように。
心身ともにやる気に満ち溢れたときは、この人材プールの手厚さが本当にわずらわしく感じる。でも、なんらかの理由でモチベーションが低下したとき、仕事のプライオリティが低下したとき、こんなときに他の誰かが頑張ってくれることは本当にありがたい。
フリーランスやプロフェッショナル・ファームでは、モチベーションの低下や失職や収入減少に直結する。ところが、大企業ではこんな現象が少ない。まあコーポレート・カルチャーもあるが、外資系であっても、フリーランスなどに比べれば遥かに優しい。
選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫)
- 作者: シーナアイエンガー,Sheena Iyengar,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/07/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る