『生涯投資家』コーポレートガバナンスは権力闘争そのもの

生涯投資家 (文春e-book)

村上世彰『生涯投資家』を読みました。

本書、金融ではなく事業会社で働く人にとって、特に金融・経済に専門性がない人にとってお薦めします。ハゲタカと呼ばれる投資銀行家たちの大義名分を知ることができます。

村上ファンドは、日本では数少ない本格的なアクティビストとして東京スタイル、阪神電気鉄道、それにニッポン放送(フジテレビ)などの買収合戦で一世風靡しました。アクティビストとは、現行の経営陣と対立することを辞さず企業経営に介入する投資家を指します。

本書は、村上のアクティビストとしての活動は、コーポレートガバナンスを普及させるという大義の元に行っていたという主張を軸に、世論を騒がせたニッポン放送(フジテレビ)の買収騒動などについて、当時の経緯を赤裸々に(実名付きで)振り返っています。

本書のエピソードはなかなか自己肯定感が強く、眉つば感が多々あります。ただ、コーポレート・ガバナンスについては至極その通りで100%賛成しました。

村上の主張を端的にまとめると以下のとおりになります。

経営者はヒト・モノ・カネを差配できる権力を持つが、日本では長らく、経営者は事実上監視する人がおらず、やりたい放題だった。その結果、経営者は、企業の成長をもたらす投資を行うよりも株式の持ち合いを進めるなど、自身の地位を保つことに執着している。これが日本経済が停滞した原因だ。

日本では、長らく、いわゆる大企業は生え抜きのエリート社員のものでした。この身内主義の経営スタイルは、良いところもたくさんあったと思いますが、東芝の事例にしかり純粋な競争環境に弱いことは否めません。

本書でも述べられているとおり、昨今は政府もコーポレートガバナンスの推進に舵をきっており、特に安倍政権がスタートして以来、日本の企業統治は年々改善されていると思います。

しかし、このコーポレートガバナンス改革が続くかといえば、そう思えない。なぜならば、コーポレートガバナンスの議論は、「富」をめぐる権力闘争そのものだからです。

企業活動による価値(富)は、株主、経営者、従業員、この3者で分け合います。株主に手厚く配分する考え方が、今説かれているコーポレートガバナンスであり、経営者側から、または従業員側から見れば、また違うロジックと主張がありますし、それは時代によって変わっていくのだと思います。