カズオイシグロは『日の名残り』がおすすめ

カズオ・イシグロがノーベル文学賞を取りましたね。

出版社でもすぐに在庫が用意できなかったのか、ようやく今月になって本屋に特設コーナーが出来てきました。

私は、デビュー作の『遠い山なみの光』だけ未読だったのですが、この機会に読み終えました。これをもって全作品の中で、カズオ・イシグロのベストを推薦いたします。

 

ズバリ『日の名残り』です。

 

オーソドックスな答えなんですけど、やっぱね…いちばん良い。

あらすじは…

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

ということです。

執事という失われつつある職業をリタイアした老人の記憶を回顧しながら物語が進みます。伝統的な文化が失われていく寂しさに、人間としての老いという哀愁がラップする…映画でいえばヒューマンドラマですね。

本作に限らずカズオ・イシグロはちょっと悲しい。

なぜか。

それは「認識のギャップ」というテーマにあります。

『日の名残り』でいえば、

執事スティーブンスが現在から過去を振り返る形式で物語が進みます。

スティーブンスの記憶の中では、かつての執事として仕えた日々は価値ある重要なものとして書かれるのですが、第三者から見た事実としては少しニュアンスが違うんですね。

人間の記憶は自身に都合が良いように脚色されていく。

現実の私たちの記憶は、事実と比較されることがなく、幸せな思い出のままです。しかし、カズオ・イシグロの小説は、第三者の事実と比較されることで、認識のギャップが明らかになる…。ここにドラマが生まれます。

 

なんだか悲しい印象しかなくなっちゃったが…とにかく深い感動があります。おすすめです。