住宅を買うか、借りるか。購入派と賃貸派が拮抗しており、何度となくテーマになる議論です。なかなか条件が多くて、整理しきれませんが、複式簿記を使って考えると、よく理解できます。
前提条件
実際の不動産サイトに載っている物件で考えてみます。物件名は「ブランズタワーみなとみらい」です。(出典:【アットホーム】建物ライブラリー|不動産・物件・住宅情報)
・購入
6,880万円(9階で52㎡)
・賃貸
23万円/月(8階で59㎡)
ほぼ同条件と見なします。また、比較を単純化するために、以下の付帯コストを見ます。
・住宅ローン金利(35年、1%固定)
・管理費、修繕積立金(3万円/月)
実際には、上記以外のコストを考える必要があります。賃貸であれば、管理費や敷金、礼金、更新料など。購入であれば、住宅ローン保証料など初期費用、ローン減税、固定資産税など。
購入するケース
まずは、6,880万円で購入する取引です。
資産と負債が両建でバランスシートに計上されますので、購入時点でのバランスシートはこうなります。
購入後はローン返済および管理費を支払います。
上記を繰り返し、1年後のバランスシートがこちらです。
以上が、購入したケースでした。
賃貸するケース
次に賃貸の取引を見ましょう。
毎月、家賃を支払います。
同じように1年後のバランスシートはこちらです。
わかりにくいですが、住宅以外の要素をまったく考えていませんから、家賃の支払分だけ資産の減少が蓄積していくイメージですね。
損得の比較
さて、ここからが本番です。
購入と賃貸の10年後を比較してみましょう。
さて、どちらが得でしょうか。
正解は「わからない」です。
時価評価をするか/しないか
賃貸の場合、変動要素はなにもありません。
しかし、購入した場合は大きな変動要素があります。
それはマンションの時価評価です。
この購入/賃貸論争に結論が出ないのは当然です。なぜならば、将来時点の時価評価額によって損得のすべてが決まるからです。
マンションの資産価値ですべてが決まる
買った時の値段に比べて、マンションの時価がどうなるか。
大きく4つのシナリオに分けて整理します。
①購入価格より値上がりまたは同額
仮に10年後に7,000万円の価値が残った場合は、100万円のプラスです。つまり、賃貸の場合は10年間で約2,800万円の家賃を支払っているのに対して、住居費が0円で住めた計算になります。
理屈上だけでなく、実際に不動産が購入時より値上がりするケースは多く、リーマンショック後の不動産市況が悪化したときに購入したマンションは、2018年現在ではほぼ含み益が出ているはずです。
市況以外であっても、広尾ガーデンレジデンスのようヴィンテージマンションとして価値が認められ、築40年を超えても新築分譲時より高値が取引される不動産もあります。
②購入価格より値下がり
メインシナリオです。
通常、マンションは新築分譲した瞬間から価格が数%下落すると言われます。また、マンション自体は、時とともに劣化するコンクリートですから、通常は年2%程度の割合で価格が下がっていくのが一般的と言われます。
ここでお伝えしたいことは、細かい計算ではなく、価値の下がり幅によって賃貸との勝ち負けが決まる、ということです。
住宅ローンよりマンションの時価が低い場合は、残債割れとなり、売却すると損失が発生します。住宅ローンで破産するケースがこれに当たります。
③価値がゼロに
テールリスクですが、購入と賃貸が最も本質的に違う部分に感じます。
可能性はゼロではありません。例えば、大震災などに被災してマンションが倒壊する、施工段階の工事不良によって引き渡し後に住めない状態になる、火災や漏水といった被害に合うケースも考えられます。
この場合、ローン残債分がすべて損失となります。
まとめ
こうして考えると、購入か賃貸か、どちらがトクか明確な答えはありません。
どちらがトクかは結果論でしかわからない。リスクを取るか/取らないかという論点なんです。もしもネガティブなことが起こらなければ、購入した方がトクなケースが多いでしょう。それは、資産を保有するリスクを背負っている、リスクプレミアムです。
※同じマンションで比較した場合、ローン返済額は家賃より低くなることが一般的であり、この差が保有リスクの対価です。
購入推進派はこう考えます。
・値下がりしにくく、価値が落ちにくいマンション探して買えばいい
・不動産市況の未来は明るい
一方で、賃貸推進派はこう考えます。
・素人が掘り出し物の不動産を買えない
・将来的に不動産価格は下がるだろう
僕自身は購入推進派です。好立地かつランドマーク的な新築マンションがベストと考えているのですが、これはまた機会に。
補足
実際には、もう少し複雑なシュミレーションが必要になるでしょう。
例えば、賃貸であれば、購入するときに比べて、マンションのグレードを下げて家賃を抑える傾向が強いでしょう。また、ライフステージに応じて住み替えがしやすく、長期的な住居費をコントロールしやすい、メリットがある反面で、長生きリスクを負います。
生涯に渡って住み替えをせずに同じ家に住む場合は、購入した場合で時価評価せずに収支比較できる可能性が高くなります(ただし、減損リスクは負います)