書評:火山のふもとで

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週末に本棚の大掃除をしました。良い本を再発見したので、いくつか書いていきたいと思います。

火山のふもとで』は、新潮社でクレストブックシリーズの編集をしていた松家仁之さんのデビュー作です。デビューとは言うものの、2012年に本作を発表した時点で50代、しかも文芸畑ですから、恐ろしく洗練された作品で、新人らしいゴツゴツさは一切ありません。

主人公は建築家。物語は、主人公が建築学科を卒業した後に著名な建築家の事務所に就職し、駆け出し時代の恋や仕事を回想する形で進んでいきます。舞台は、建築家先生が持っていた「夏の家」と呼ばれる山荘なのですが、この山荘は浅間山のふもとに、つまり「火山のふもと」にある。ここからタイトルが来ています。

この小説の魅力は2つあって、1つは、透明感のある文体。うまく表現できないのですが、藤沢周平の『蝉しぐれ』の透明感や瑞々しさに近しいものを感じました。作風はだいぶ違いますがね。

さて、もう1つの魅力は、一目でわかる美しい装丁です。歴代の名装丁といえば、なんと言っても、吉本ばなな『TSUGUMI』ですが、これは匹敵しますね。カバー絵は牡丹靖佳さん。絵そのものも良いですが、装丁デザインも抜群だと思います。個展で見るより良いかも…なんてね。