『マッチポイント』から人生を学ぶ

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全く救いようがないストーリーで、そこがウッディ・アレンらしく良かった。

金持ちの奥さんに浮気がバレそうになった主人公が、このままではヤバイと不倫相手を銃殺する。もちろん容疑者として警察に捜査を受ける。しかし、幸運にもまったくの別人が犯人とされ、主人公は悠々自適に暮らしていく。まったく倫理観が欠けている。

この主人公の身勝手さ、浮気を追い詰められていくところが実に生々しい。不倫相手が次第にヒステリーになる。嫁の実家に電話を架ける。「もう全部言ってやる」と叫びちらす。ホラー映画より恐ろしい展開で、もう画面を直視できなかった。

この不倫相手役のノラをスカーレット・ヨハンソンが演じている。薄幸な子にありがちな弱さ。この演技が上手い。ここに本作の真骨頂があります。

セクシーで美しいけれど、決して尻軽ではない。女優という高い目標を目指しており、うまくいかないが、ブティックで地道に働いている。真面目に生きている。

しかし、致命的に流されやすく、知性がない。自分の感情を抑えきれない。人の気持ちを洞察できない。不倫相手である主人公の子供を妊娠してしまうのだが、そのときのセリフが「これで堕ろすのは3回目だから、もう堕ろしたくない」。この言葉に彼女の人生がすべてが表れている。

さて、作中で主人公が逮捕されなかったのは、まったくの偶然。たまたま捨てた証拠品を、たまたま拾ったホームレスが犯人に間違われたのだ。なので、この映画のテーマは「結局、すべて運」と思える。

しかし、ぼくは違う解釈をした。運は結果にすぎなくそれを引き寄せる「知性」や「強さ」にこそが大切なんだ、これがエッセンスでないか。私たちはみな、くれぐれもノラにならないように、と。