渋谷パルコが普通のビルに生まれ変わる

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渋谷パルコが2016年8月7日をもって一時休業し再開発されるそうです。

その昔、渋谷でアルバイトをしていた頃は、当時地下1階にあったイドロパッドというベルギービールの専門店によく通っていました。

あとパルコ劇場。三谷幸喜が世に出たのもパルコ劇場ですし、志の輔らくごだってパルコです。地下には渋谷では珍しい大型書店LIBROと洋書LOGOSもありましたし。

さて、そんなパルコは西武鉄道系のセゾングループからスタートした業態です。2000年のセゾン解体によって安定株主を失ったパルコは流浪の10年を過ごすことになります。

次のオーナーは不動産デベロッパーの森トラスト。

WAVEやLIBROなどの不採算事業を売却するも立ち直れず、生え抜きの経営陣と森トラの対立が激化。森トラはパルコ周辺の再開発を見据えていましたが、まとめきれず、経営サイドが呼び込んだ日本政策投資銀行(DBJ)やイオンが参入してパルコ争奪戦に発展します。

最終的に、2012年に大丸・松坂屋を傘下に持つJフロントリテイリングが森トラ・DBJが保有する株式を取得することで、パルコを子会社化。これによって約10年のエクイティ問題が解決することなりました。

パルコにとってこの10年という時間は、本当に大きかったのだと思います。明らかに魅力が低下していく中、経営上の問題でなにもできなかったわけですから。失われた10年が終わり、ようやく再開発への道筋が立ったのが「今」なのかも知れません。

再開発計画では、パート1とパート3を両方取り壊し一体の敷地とします。さらに、現在の9階から倍増の地上20階地下3階の巨大ビルへ建替えるそうです。9階以上は賃貸オフィス。

これは、全フロアに商業施設が入ることで「ファッションビル」と呼ばれたパルコが、よくある普通の不動産賃貸業に生まれ変わることを意味します。

というわけで、昔を懐かしみながら散策し、最後にパルコブックセンター(旧LIBRO)に寄りました。LOGOSの売り場も縮小され、ほんのわずか。「赤いシールは30%オフ」の張り紙を見て、LOGOSはこのまま無くなるのかもな、そう感じました。

餞別の代わりにアレックス・カッツの『Landscapes』という画集を買いました。またその値段が象徴的で。LOGOSの定価は7,380円なんですね。これが30%オフで約5,000円。でも、Amazonの売価は4,900円なんですよ。

LOGOSの30%オフよりAmazonの方が安い。洋書は再販制度の規制がありませんから、本当に経営の実力差が出ます。愛情だけでは補いきれない価格差ですね。

自分の青春時代が目に見えて終わったような気がして、なかなか切ない一日でした。

 

『Who Gets What』 オカネで買えないマーケットをどうやって効率的にするか?

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ノーベル経済学賞を受賞したアルビン・ロス教授の『Who Gets What』をGW休暇を使って読みました。

この本のテーマは「マッチメイキング」、つまり需要と供給のベストな組み合わせを探ること、です。「市場」という経済学の古典的なテーマのように見えますが、一番の特徴は、オカネでは需要と供給がマッチできない非営利的な「市場」の仕組みづくりに焦点を当てているところです。

例えば、人気ラーメン店の行列を解消する方法を検討しましょう。古典的な経済学ではこう考えます。ラーメン1杯の値段を上げていけば、どこかの価格で需要と供給が均衡するため、行列が解消する。実際に、証券取引所などの金融市場は貨幣価値によって市場がデザインされています。売り手は1番高い価格を提示した人に売れば良いのです。

しかし、この方法でマッチングが成立しない市場もあります。価格でマッチングする方法は倫理的に正しくないとされる場合が多いからです。

臓器の販売、大学の入学試験、企業の採用活動なども、供給側と需要側を組み合わせるという市場です。ですが、これらの市場はオカネでマッチングすることが倫理的に好ましくないとされます。1番高い金額を払った人が臓器移植を真っ先にできるというルールは正しくないと思う人が多いのでは?しかし、皮肉にも、価格による市場機能が働かないがゆえに、非効率になりがちだという特性があります。

本書は、このような価格が機能しない市場における最適なマッチングはなにか。どのようにマーケットをデザインするのが良いのか。というテーマを深堀した内容になっています。その意味でオンラインサービスを運営する方などは興味深い内容かも知れません。

読了した感想としては、実務レベルでの目新しさはなかったでしょうか。マッチングは、人類の昔から課題の一つだと思いますが、仕組みの実現にはどうしても政治的な要素が介入せざるを得ず、「理屈はわかるが実行できない」ものの典型です。

Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

 

好きなイラストレーター5選

最近気になっているイラストレーターをまとめました。和洋折衷です。

 

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高橋将貴(Masaki Takahashi)

ポパイの表紙や挿絵でよく見かけるアーティストです。ポートレイトがイイ。なんだろう、どこか彫刻的なんですよね。いつかポートレートを描いて欲しい…。

 

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カルロス・ストラウティネカス(Karolis Strautinekas)

アウディやニューヨークタイムズをクライアントを持つリトアニア在住!のアーティスト。クリエイティブ系のSNSが普及してから、本当にするっとグローバルな活躍に結びつきますよね。作風は水彩画を思わせるソフトタッチなイラストレーションです。

 

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ステフ・モリス(Steph Morris)

写実的なスニーカーをテーマにしたアメリカ在住のアーティストです。フレッド・シーガルの展示で知りました。オリジナルは20万円程度ですが、コピーは1万円で販売中でした。

 

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トーマス・ダンソニー(THOMAS DANTHONY)

ロンドン在住のイラストレーターです。洗練された都会的な作風、80~90年代を感じさせる人工的なタッチに雰囲気があります。Mediumサービス・イン時の挿絵を手掛けています。

 

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東海林 巨樹(Naoki Shoji)

GQや&PREMIUMなど、ミドル向けシティ雑誌で、よく見かける写実風のポートレイトを手掛けています。ですが、プライベート・ワークは抽象的でありストリート感あるものが多め。本当は描きたいテーマ違うのかな…なんて。

 

出典

1、高橋将貴;Magazine illustration(POPEYE / マガジンハウス)

2、http://strautniekas.com/;Sky&Telescope magazine asked me to illustrate an article about the scientist who has an Asperger syndrome. Author: Paul Greenewich

3、Steph Morris;Nike Air More Uptempo

4、THOMAS DANTHONY;“Share” illustration, Illustrating for Medium

5、東海林 巨樹;GQ JAPAN(コンデナスト・ジャパン) March 2016 vol.155〜 portrait of Jiro Ishikawa AD:高村雄介

GENKINGにみる性別さえもフラット化する社会へ

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2年ほど前の記事ですが、著名なファッションブロガーであるスコット・シューマンが2014年のトレンドを評していわく、「メンズとウィメンズがどんどん似てきた」と短くコメントしたことがあります。

妙に記憶に残っているのですが、このコメントを思い出す出来事が2つありました。

1つは、GENKINGさんの人気。GENKINGさんは中性的な雰囲気のタレント?ですが、かなり人気だそうで、さまざまなサイドビジネスも好調らしいです。Instagramのフォロワー数は70万人。加熱ぶりがわかります。

もう1つは、街をあるいて肌がきれいな若者が増えたことですね。特にショートパンツを履いた若いオトコはスネ毛がない。サウナ愛好家の知人によると「下の毛がないオトコの比率が増えた」とのことで、実感として確からしい気がします。

ファッショントレンドは女性がメンズ化しているようですが、総体としては男性が女性化している気がします。いやそうではないかも知れない。男女というより、性別がフラットになってきていて、より個人の価値観で生き方を決める人が多くなるということなんだろうな。

カレンダーどおりの人は本日からGWですね。みなさま、良いロングウィークエンドをお過ごしください。

※写真:オニツカタイガーのインタビューより

『歴史の終わり』 地方移住やノマドに見る自由への欲求

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フランシス・フクヤマ『歴史の終わり』を読みました。フランシス・フクヤマは日系3世の著名な国際政治学者です。1992年に出版された本書は、冷戦後の国際構造を説いた一説として、様々な論争を巻き起こしました。

出版後すでに20年以上が経過し、すでに古典的な名作といえる本書ですが、さまざま考えさせるところがあり、500ページの分量と時間をかけて読む価値がありました。

「人間の歴史はすでに終わっているのではないか」という幾分センセーショナルな仮説が本書の骨子です。フクヤマの主張を乱暴にまとめると次のようになります。

有史以来、人間は争いを続けてきた。なんのための争いだったのか。決して経済的な欲望のためだけではない。一番の要因は、人間には他人に認められたい「認知」という根源的な欲求があることだ。フランス革命や奴隷解放運動といった史実は、経済合理性だけでは説明することができない。

この人間の「認知」を一番満たす政治体制はなんだろうか。答えは民主主義である。社会主義が崩壊した理由は、経済的な失政ではなく、人々を抑圧し「認知」を奪ったことが原因だ。今後も、人間の「認知」を満たす制度、つまり個人が自由と欲望がバランスされる政治体制は、民主主義以外にありえないだろう。

これまでの「認知」を欲する人間の闘争は、民主主義制度の確立によって、終焉を迎えている。そう、すでに人間の「歴史」は終わっているのだ。

ここで使われている「認知」とは尊厳とか敬意のような意味合いだと解釈しましたが、現実になっている事象が多くあるように思います。

例えば最近の地方移住ブーム。ノマドワーカーへの憧憬なども、まさに経済的な欲望をあきらめても、企業への従属を拒否するというライフスタイルです。技術革新によって、個人の尊厳と自由の幅が、極限まで尊重されるような社会構造になっていくでしょう。

 

さて、この本書は「民主主義はベストだから世界各国に普及させなければならない」と解釈され、普及の為には戦争も辞さないというネオコンの主張を肯定したとして、多くの反論が寄せられました。

このうち最も有名なものが、ハーバード大学の師匠でもあったサミュエル・ハンチントンによる『文明の衝突』です。ハンチントンは「文明により政治体制が決定され持続はしない」として「歴史は終わらない」と反論しています。