『歴史の終わり』 地方移住やノマドに見る自由への欲求

f:id:pekey:20160426225148j:plain

フランシス・フクヤマ『歴史の終わり』を読みました。フランシス・フクヤマは日系3世の著名な国際政治学者です。1992年に出版された本書は、冷戦後の国際構造を説いた一説として、様々な論争を巻き起こしました。

出版後すでに20年以上が経過し、すでに古典的な名作といえる本書ですが、さまざま考えさせるところがあり、500ページの分量と時間をかけて読む価値がありました。

「人間の歴史はすでに終わっているのではないか」という幾分センセーショナルな仮説が本書の骨子です。フクヤマの主張を乱暴にまとめると次のようになります。

有史以来、人間は争いを続けてきた。なんのための争いだったのか。決して経済的な欲望のためだけではない。一番の要因は、人間には他人に認められたい「認知」という根源的な欲求があることだ。フランス革命や奴隷解放運動といった史実は、経済合理性だけでは説明することができない。

この人間の「認知」を一番満たす政治体制はなんだろうか。答えは民主主義である。社会主義が崩壊した理由は、経済的な失政ではなく、人々を抑圧し「認知」を奪ったことが原因だ。今後も、人間の「認知」を満たす制度、つまり個人が自由と欲望がバランスされる政治体制は、民主主義以外にありえないだろう。

これまでの「認知」を欲する人間の闘争は、民主主義制度の確立によって、終焉を迎えている。そう、すでに人間の「歴史」は終わっているのだ。

ここで使われている「認知」とは尊厳とか敬意のような意味合いだと解釈しましたが、現実になっている事象が多くあるように思います。

例えば最近の地方移住ブーム。ノマドワーカーへの憧憬なども、まさに経済的な欲望をあきらめても、企業への従属を拒否するというライフスタイルです。技術革新によって、個人の尊厳と自由の幅が、極限まで尊重されるような社会構造になっていくでしょう。

 

さて、この本書は「民主主義はベストだから世界各国に普及させなければならない」と解釈され、普及の為には戦争も辞さないというネオコンの主張を肯定したとして、多くの反論が寄せられました。

このうち最も有名なものが、ハーバード大学の師匠でもあったサミュエル・ハンチントンによる『文明の衝突』です。ハンチントンは「文明により政治体制が決定され持続はしない」として「歴史は終わらない」と反論しています。

横浜DeNAベイスターズのボールパーク構想

f:id:pekey:20160424223544j:plain

横浜ベイスターズは2012年にTBSからDeNAに譲渡され、横浜DeNAベイスターズに改名しました。同じ新興オーナーである楽天とは一味違った経営スタイルで、関心をもって見ています。

他球団を上回る観客動員数の伸び

キー局のテレビ中継が少なくなったプロ野球産業ですが、2015年のセ・パ観客動員数は約2,400万人と、この10年間で20%の増加しています。これに対して横浜DeNAベイスターズの観客動員数は、TBS時代と比べて7割の増加の181万人ですから、他球団と比べても好調な客足だと言えるでしょう。

それでも赤字の野球事業

DeNAの2016年3月期の業績見通しによると、横浜DeNAベイスターズの業績は、観客動員数が7割増えてもなお、約15億円の営業損失です。この原因の一つが、横浜スタジアムの使用料が高額であること、物販・広告収入が球団に入らない契約スキームにあります。

この問題を解消するため、横浜DeNAベイスターズは株式会社横浜スタジアムを買収することで合意し、この2015年第4四半期から同社はDeNAの連結対象になるそうです。

株式会社横浜スタジアムは横浜市などが保有する第3セクターです。公営施設の賃料が高いことは、つまり税収が上がることですから良いことですし、保有側から見れば有料企業でしょう。ですから、この買収協議は相当な苦労があったのではと推察します。

コミュニティボールパーク構想

なぜまとまったか。これは私の推測ですが、横浜DeNAベイスターズの提案が相当に横浜市サイドの心を打ったのではないか、と思います。

先日、球団設立5周年を記念して1冊のフォトブックが発売されました。タイトルは『BALLPARK』、球団の言葉を借りれば、「球団創設5周年を迎えるにあたり、魅力的なボールパークとは何かを考える、球団初のメッセージフォトブック」だそうです。

これがDeNAが横浜市に対して示したビジョンでは、と感じずにはいられません。横浜は、みなとみらい地区をはじめ、都市開発に強みと歴史のある「街づくり」の自治体ですから。

私が一番好きな球場はサンフランシスコのAT&Tパーク(写真)。サンフランシスコの海と一体となった球場は、単にスタイリッシュというより、街のシンボルであり、文化の一部になっています。

ハマスタ周辺もそんな施設になればいいですよね。欲をいえば、もう少し海に近いと良いのですが。

 

空気のつくり方

空気のつくり方

 

『Coyote 安西水丸特集』

f:id:pekey:20160422203908j:plain

雑誌Coyoteで2014年に急逝された安西水丸さんの回顧特集が組まれています。

この手の回顧本は買っただけで満足するケースが多くて、本屋で見かけるたびに買っておくべきか迷っていたのですが、あとで後悔するかも知れない、という恐れに負けて購入しました。

本特集では、水丸さんと旧交があった方のインタビューがいくつか掲載されています。印象深かったのは村上春樹のエッセイ。中央公論社から出版されている『中国行きのスロウ・ボート』という短編集の表紙絵が水丸さんの作品なのですが、

正直言って、これまで出版した本の表紙の中で、僕はこの絵がいちばん個人的に気に入っている。水丸さんが描いた絵の中でも、いちばん好きだと言っていいかもしれない。

だそうです。そうなんだ。確か洋ナシのイラストでしたよね、印象深かったので確かに記憶に残っています。

f:id:pekey:20160422204250j:plain

私は初期のToy Seriesが好きで、昨年Spaceyuiで開催された回顧展で思わず購入した「Esquire」がお気に入りです。(写真右)

愛読していた雑誌の休刊

f:id:pekey:20160418215249j:plain

2016年も早々に愛読していた雑誌が2誌も休刊になりました。

1つは、バンクーバー発のINVENTORY MAGAZINE。インタビューを中心にしたファッション誌なのですが、「編集部が好きな人を取材してます」的な良い意味のアマチュア感が好きで、代官山蔦屋への入荷を楽しみにしていた雑誌です。

もう1つは、クーリエ・ジャポン。「海外から見た日本がどう見えるか」をテーマに世界のメディアから記事を選ぶというコンセプト。実にインターネット的というか、流行りのキュレーション・メディアそのものですね。2005年の創刊から約10年、ちょこちょこ買っていたので少し寂しいものがあります。

クーリエは有料ウェブメディアとして生まれ変わるらしく、すでに新しいウェブサイトがサービスインしています。でもなぜか、ウェブで見ると、よくあるウェブサイトのコンテンツと同じに見えるんですよね。あまり違いがわからないし、ましてや購読する気になりません。雑誌の魅力は、実はコンテンツ自体ではなく、印刷物のプロダクト感やデザインなどのブランド要素に価値があったのかも知れない、そう気づかされます。

出版科学研究所によると、雑誌の市場規模は8,520億円(2014年)とピーク時より46%減少。同じく減少傾向にある書籍に比べても落ち込みのスピードが速く、書籍以上にWEBによる代替が今後も進んでいくだろう、とのことです。

参考:デジタル社会経済のもとでの雑誌出版生き残り戦略

 

『世界の権力者が寵愛した銀行』 パナマ文書で話題のタックスヘイブンを知りたい方へ

f:id:pekey:20160417163828j:plain

パナマの法律事務所が租税回避目的で作成したペーパーカンパニーの顧客リスト、いわゆるパナマ文書、が流出して世界各国VIPのスキャンダルになっています。

タックスヘイブンで税金逃れをするためにもコストがかかります。この経費が節税額より安くなければ租税回避をする意味もありません。したがって、私たち庶民にはどこか遠くにあるニュースなのですが、ゴシップ的に関心を持った方も多いでしょう。

私も、昔からタックスヘイブンという仕組みに純粋な好奇心があって、今年に入ってから1冊の本を読みました。内容が専門的ですし、したがって強くお薦めするものでもありません。しかし、タイムリーな話題でもあるので、ご紹介したいと思います。

この『世界の権力者が寵愛した銀行』は、スイスにあるプライベートバンクの顧客情報を、ここには脱税や不法行為による蓄財など様々なマネーが集約されているのですが、銀行のITエンジニアが司法・税務当局へリークした事件のノンフィクションです。

著者は、チャールズ・ファルチャーニというイタリア人で、顧客情報をリークしたITエンジニア本人。つまり、この本はなぜ顧客情報のリークという犯罪に至ったのか、自身の犯行正当性を訴えた内容になっています。

ですので、いたって主観的な記述が多かったりして、あまり面白くありません。きっと本書を出版した講談社も気がついていたのでしょう、日本版には、本編を挟んで橘玲さんの肉厚なイントロダクションと解説が付属した構成になっています。

橘玲さんは海外投資のコミュニティを主催するなど海外投資に知見がある方ですので、この解説が実に面白い。例えば、タックスヘイブン国がなぜ存在するかという疑問については、次のように記載されています。

規模的には本来「国家」になれるはずもないのに、歴史の偶然から「主権」を手に入れた地域が生まれた。ファルチャーニが生まれたモナコ公国もそのひとつで、フランスの一地方であるにもかかわらず、イタイアとの領土交渉の過程で主権国家として独立を果たした。~中略~

こうしたミニ国家・地域は、規模が小さすぎて自立することができない。そのためエネルギーなどのインフラを近隣の大国に依存しつつ、「主権」を利用して金融機関や富裕層に有利な税制を定めることで生き残りをはかる独特の戦略を採用した。これがタックスヘイブンだ。

繰り返しになりますが、ファルチャーニが書いている本編は余り面白いものではありません 笑 。読まれる際は、橘玲の解説を買うつもりで…。

世界の権力者が寵愛した銀行 タックスヘイブンの秘密を暴露した行員の告白

世界の権力者が寵愛した銀行 タックスヘイブンの秘密を暴露した行員の告白

  • 作者: エルヴェ・ファルチャーニ,アンジェロ・ミンクッツィ,橘玲,芝田高太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/09/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る