村上春樹の『一人称単数』を読んで

村上春樹の新刊『一人称単数』を読んだ。小説でいえば、前作は『騎士団長殺し』の2017年。約3年振りの新刊らしい。もっとも、奥付を見ると、各短編作品は『文学界』で2018年頃から発表されていたようだ。雑誌で新作が発表されていたとは知らなかった。

収録されている短編は8つ。7つが『文学界』で発表された作品である。最後の『一人称単数』が書き下ろし作品となり、これが表題作となっている。

率直な感想として、キャリア初期の作品を読んでいる気がした。ここ数十年の「総合小説」と自身が呼ぶ、複雑で深みのある物語ではなく、軽いタッチの作品が多かった。

『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』や『ヤクルト・スワローズ詩集』は、初期の短編集に入っていそうで、どこか懐かしさがある。『謝肉祭(Carnaval)』や『品川猿の告白』も、なんだろう、『パン屋再襲撃』みたいだな、と思った。こっそり隠しておいた昔の作品を書き直しました。そんな印象を受けた。

そして、最後の『一人称単数』は、タイトルが大きなメッセージなんだろう。村上春樹といえば、主人公は「僕」であり、日本で最も有名な一人称小説の作家である。ご本人もよくよく意識されている。

前作『騎士団長殺し』は自身の好きなギャッツビーを村上風にアレンジしたのだと思った。対して、この『一人称単数』は、初期作品の総決算をしたように受け止められる。なんだか、作家人生の総括をしているようだな。読み終えて、そう感じた。