『のようなもの』と『のようなもの のようなもの』

60歳で早逝された森田芳光監督のデビュー作『のようなもの』を見た。

タイトルが変わっている。落語の「居酒屋」から取ったそうだ。客と小僧が掛け合う小噺だが、小僧が言う「あんこうのようなもの」から引いている。タイトルどおり、これは落語の映画である。

森田監督は料亭で生まれ育ち、幼いころから水商売を裏側から見てきたそうだ。だからか、落語といっても高座のシーンは少ないし、ヒロインである秋吉久美子の役柄はソープ嬢であって、楽屋から見た雰囲気になっている。

主人公の志ん魚は冴えない落語家で、人生の岐路にある。この志ん魚がガールフレンドの家から「道中づけ」を実際に歩いて帰っていくところが、一番の山場だ。良いシーンだが、随分と地味でしょう。この映画は、ロードムービーのようなもの、だと思った。

本作には続編がある。これが『のようなもの のようなもの』で、森田監督が逝去した後に、「森田組」で撮ったそうだ。オリジナルに負けず劣らず良い映画だったが、こちらは構成がしっかりしており、そこが違った印象になっている。

俳優のでんでんは『のようなもの』でデビューしたが、続編の『のようなもの のようなもの』ではぐっと貫禄が出ていた。「これは間違いない、黄金餅じゃねえか」と兄弟子の尾藤イサオにささやくシーン。短いけれど、雰囲気があった。

音楽もいい。兄弟子を演じた尾藤イサオがテーマ曲を歌っている。「彼女はムービング・オン」、それから「シー・ユー・アゲイン雰囲気」という2曲。タイトルもイケてるが、曲自もまさにシティポップだ。余韻に浸りたくて、YouTubeでリピートしてしまった。