勝間和代「お金は銀行に預けるな」

最近は活躍を見かけないが、勝間和代さんという慶応在学中からアーサーアンダーセンで働き、しかも学生結婚してワーキングマザーでもあり、さらにその後のマッキンゼー在職中は「給湯室でネギを切っていた」という生きる伝説の1人が書いた金融指南書である。

出版が2007年だそうで、恐らく勝間さんが評論家として世に出始めた初期の作品だろう、この後、多くのヒット作を出版して時の人となった。本書はタイトルどおり「お金は銀行に預けないで投資しろ」という本で、先日亡くなったヤマゲンよろしく、資産は四分割して、国内と海外株式、国内と海外債権、これを25%づつ買え。アクティブに手を出さずにノーロードのインデックス投信を買え。銀行のドル箱は住宅ローンだから、頭金なんかに現金を使わずに、その分を投資して賃貸に住め。というのが本書の主張である。

この本を読んで実践したことは「お金は銀行に預けない」ことだけであり、結局、株は効率が悪いとされる個別株をやっている。債権ETFは買ってみたものの、あまり価値を感じずに随分前にポートフォリオから消去した。海外株は米国株の現物に行きつくまでに、ETFをいくつか買って、パッとしない運用に終始した。なかでも一番宗派が異なるのは住宅ローンに対する考え方で、この10数年を賃貸オンリーで行っていたら、取り返しのつかない機会損失を被っているところだっただろう。インデックス積立だけで昨今のマンション高騰には追いつけていないはずだ。結果を振り返ってみれば、資産形成としては大間違いだった、と言って差し支えない。

今読めば本書のそれぞれの主張に「これは違う」という意見がある。株はインデックス以上の利益を目指さないでどうするの、と思うし、資産四分割は本当に逆相関になっているのか、むしろ現代では相関度合いが高まっているのでは。さらに住宅ローンに至っては、こんな低利かつ減税までついたローンが組め、さらには安定度の高いマンションがあるなかで、使わない理由がない。なにより、世のインデックス論者は、マクロを世界を語りすぎて、自分の人生はN=1だと考えないのだろうか。サイコロで1が出る確率は1/6だが、私が次に振るサイコロの目は、誰にもわからない。

しかし、自由が丘のブックファーストで本書を手に取ったときは、自分の意見が持てるほどのリテラシーが私にはなかった。この本をきっかけに色々な金融商品を自分で購入し、原資を捻出するために家計をよく管理し、給与を増やす努力もしたし、なにより「身銭を切って」学んだリテラシーによって、反論できるほどの知識や考えが身に着いたと言える。本書の内容そのものというより、きっかけを与えてくれた本というか、やる気スイッチを押してくれた本であり、モトは取って余りあるものだった。

 

お金は銀行に預けるな~金融リテラシーの基本と実践~ (光文社新書)